将棋初心者の方にとって相振り飛車は難しく、苦手にしている方も多いです。できれば避けたい戦法ではありますが、こちらが振り飛車で戦ってるときに相手も飛車を振ってしまえば相振り飛車になってしまうので、避けようにも避けられません。
相振り飛車は、振り飛車vs居飛車の対抗型とは異なる感覚が必要なうえに、序盤の駒組みにも多くの罠が仕掛けられています。そのため級位者の方が適当に指していたら序盤早々敗着になってしまうことも…
そこで、今回は相振り飛車に苦手意識を持っている級位者の方に向けて、基礎の基礎から解説したいと思います。
目次
相振り飛車入門
相振り飛車って??
相振り飛車とは読んで字の如く、先手と後手がお互いに飛車を振る将棋のことです。対抗型の将棋ではお互いに囲いの横から攻めるのに対し、相振り飛車では縦向きに攻めることとなります。そのため相居飛車に近い感覚が必要となり、振り飛車党の初心者の方にはとっつきにくい戦型だと思います。
また飛車の振る場所が、向かい飛車、三間飛車、四間飛車、中飛車と選択肢が多く、先手と後手で4パターンの計16パターンもあります。さらに囲いも様々で、美濃囲い、金無双、右矢倉、穴熊などはどれもよく使われています。
これらの駒組みの多様さから、相振り飛車は定跡が整備されていない部分が多く、初心者には余計に指しづらくなっています。
先手向かい飛車vs後手三間飛車が基本
今回の記事では先手が向かい飛車で後手が三間飛車の場合について、先手の立場から解説します。向かい飛車は相振り飛車の中では最も戦いやすく、初心者向けだと思っています。
序盤の駒組みとワナ
図1-1の基本図を目指して駒組みを進めるわけですが、後手からの様々な仕掛けがあり、1手間違えると序盤から自陣が崩壊してしまいます。まずはどのような手順で向かい飛車に組んでいくのか見ていきましょう。
後手が三間飛車の形に
初手から ▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △3五歩 として図2-1。
先手は三手目に▲6六歩と角道を止め、スタンダードな振り飛車党の手です。対して後手は△3五歩と三間飛車の駒組みをしてきました。
先手は相手が振り飛車であるのを見て向かい飛車に振りたいのですが、いきなり飛車を振ってしまってもよいのでしょうか。
すぐに向かい飛車に振るのはうまくいかない
図2-1から ▲7七角 △3二飛 ▲8八飛 として図2-2。
すぐ角を7七にあげて向かい飛車に振るのはうまくいきません。ここから数手進めてみましょう。
図2-2から △3六歩 ▲同歩 △同飛 ▲3七歩 △6六飛 として図2-3。
飛車を横にスライドして歩を取られてしまいます。何となく既に先手が悪そうに見えますが、さらに進めてみます。
図2-3から ▲6六角 △同角 として図2-4。
角成を見せつつ、さらにここから△5五角打と駒を足して飛車をいじめる筋も見えます。これでは先手が序盤から劣勢です。
6六の歩を飛車でかすめ取られると先手不利になってしまうことがわかりました。そのため 図2-1 からは早めに6六の地点を守る手を指す必要があります。
早めに銀を上げて6六を守る
図2-1 から ▲7八銀 △3二飛 ▲6七銀 として図2-5。
早めに銀を6七の地点に上げて、6六の歩を守るのがポイントです。これで先ほど解説した横歩を取る筋はなくなりました。
5五角の攻めは無理筋
図2-5から △3六歩 ▲同歩 △5五角 として図2-6。
後手は5五角として飛車に当ててきました、さらにこの角は3七の地点も狙っており非常に厄介です。この5五角は石田流でもよく見られる筋で、苦しめられた方も多いのではないでしょうか。
しかし後手のこの攻めは無理筋で、しっかり受ければ大したことはありません。
図2-6から ▲1八飛 △3六飛 ▲5六銀 として図2-7。
冷静に飛車を逃がしたのちに、銀を進めて相手の角に働きかけます。6七の銀は歩を守っているだけでなく、△5五角を防ぐ意味もあったのです。さらに数手進めて局面を収めましょう。
図2-7から △2二角 ▲3七歩 として図2-8。
角が逃げたのちに歩で飛車をはじけば局面が収まります。先手はこの後ゆっくり▲7七角~▲8八飛と向かい飛車に組めばOKです。
後手が攻めに手を使っている間に、先手は手順に銀を上げているため大きく手得しています。後手は無理に攻めようとせずに、 図2-5 からゆっくりと駒組みを進めるべきでした。
後手は無理に攻めずに、無難に駒組み
図2-5 から △6二玉 ▲7七角 △7二玉 ▲8八飛 として図2-9。
ようやく先手は向かい飛車の形に組めました。ここからは囲いを組んでいきましょう。
囲いは金無双(2枚金)に
金無双(2枚金)とは?
金無双とは図3-1のような囲いで、相振り飛車特有の形です。この囲いは2枚金とも呼ばれています。
金無双は現在のプロではあまり指されておらず、強い囲いとは言えません。しかし相振り飛車の基本ともいえる囲いで、まずは金無双から覚えれば相振り飛車の感覚を体で覚えられるはずです。またアマチュアの将棋では金無双も十分通用すると思います。
組むときの注意点、まずは2八銀から
図2-9 から金無双に組む手順を見ていきます。ここにもワナがあるため注意が必要です。
図2-9 から △3二銀 ▲4八玉 △3六歩 ▲同歩 △5五角 として図3-2。
平凡に▲4八玉と上がってしまうとまたしても5五角の攻めがきまってしまいます。このあと▲3七桂と受けても△3六飛と歩を取られて先手劣勢です。
図2-9 から △3二銀 ▲2八銀 として図3-3。
金無双に組むときはまず▲2八銀とあがっておくのがよいでしょう。この銀には飛車のヒモがついているため、安心して駒組みを進められます。
ここからは自然に金と玉を上がっていき、金無双を目指せば問題ありません。
攻めの形を作っていく
ここからは、相振り飛車における攻めの形の理想形を目指していきます。対抗型とは攻めの形が大きく異なるため、感覚を知っておきましょう。
飛車先の歩を伸ばす
図3-3 から △4二金 ▲8六歩 △7二銀 ▲8五歩 として図4-1。
後手は金無双を目指しています。先手は囲いをくみ上げる前に飛車先の歩を伸ばしておき、いつでも歩をぶつけられる状態にしておきます。
後手は浮き飛車にして飛車先を受ける
図4-1から △3六歩 ▲同歩 △同飛 ▲3七歩 △3四飛 として図4-2。
後手は浮き飛車に構えて、先手が飛車先の歩を交換するのを防いできました。金無双のような低い囲いは浮き飛車の構えと相性が良いです。飛車先の歩の交換を防げるだけでなく、他の筋に回って牽制を仕掛けることもできます。
先手も隙をみて浮き飛車に
図4-2から ▲4八玉 △6二金 ▲3八玉 △4四歩 として図4-3。
後手は銀を攻めに活用しようと△4四歩と突いたところですが、この瞬間に指したい手があります。
図4-3から ▲8四歩 △同歩 ▲同飛 △8三歩 ▲8六飛 として図4-4。
後手の飛車の横効きが止まった瞬間に、先手も浮き飛車に構えます。金無双では浮き飛車に構えるのが基本です。
金無双を完成させる
図4-4から △3三銀 ▲5八金 △2四歩 ▲4八金 として図4-5。
先手はとりあえず金無双を完成させました。
こちらからの端歩は必ず突く
図4-6から △1四歩 ▲1六歩 △2五歩 ▲9六歩 △9四歩 として図4-7。
後手から端歩を突いてきました。相振り飛車において端歩を受けるかどうかは難しい問題で、受ける方がよい場合と受けない方がよい場合がどちらもあります。しかし初心者のうちはあまり考えずにとりあえず端歩は受けておけば悪手にはならないはずです。
また相振り飛車における端攻めは非常に強力なので、こちらからの端歩(先手の場合は9六歩)は必ず突いておくようにしましょう。
角と桂馬の活用
図4-7から ▲6五歩 △3三桂 ▲6六角 △5四銀 ▲7七桂 として図4-8。
先手は角道を開けてから、▲6六角としました。相振り飛車においては6六の地点の角は好位置となるので、常に狙いましょう。また桂馬を活用するために跳ねておきます。この桂馬は6五の歩を守る意味もあります。
ここまでで向かい飛車&金無双の駒組みは終了です。ここからいよいよ駒をぶつけて相手陣を攻めていきますが、長くなってしまったので次回に回したいと思います。
まとめ
先手向かい飛車vs後手三間飛車での駒組みのコツを解説しました。ポイントとしては、
- 早めに▲6七銀と上がっておく
- 金無双に組むときは▲2八銀から
- 浮き飛車に構える
- こちらからの端歩(▲9六歩)は突く
- 角は6六、桂馬は7七に
となります。ここを抑えておけば、駒組みの時点で大きく不利になることはないはずです。次回からは実際に相手の囲いを攻めていく方法について解説していきます。
また、相振り飛車についてさらに勉強したいと思った方は、本を買って勉強することをおすすめします。今回私の解説よりも多くの変化が詳しく書かれているので、本格的に勉強するのには必須です。
とくに藤井猛先生の「相振り飛車を指しこなす本」シリーズがおすすめですよ。
また、相振り飛車全般のおすすめの棋書は以下の記事で紹介しています。
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