今回の記事では、将棋の持ち時間に関してルールを解説していきます。
目次
将棋の持ち時間のルールって?指し切り、秒読み、フィッシャールール
将棋の持ち時間のルールは、大きく分けると「指し切り」「秒読み」「フィッシャールール」の3つになります。
- 指し切り:持ち時間を使い切ると負け。アマチュア将棋で一般的なルール
- 秒読み :持ち時間を使い切ると1手1分(or 30秒等)以内に。プロ棋戦で一般的なルール
- フィッシャールール:1手指すごとに持ち時間が増えていく。ほとんど使われていないルール
指し切り(切れ負け)、アマチュア将棋と言えばこれ!早指しのルール
アマチュア将棋で一般的で、もっともシンプルなルールが「指し切り」もしくは「切れ負け」です。対局者は、自分の手番になると持ち時間を消費し、持ち時間を使い切ると無条件で負けとなります。
例えば、20分指し切りというルールであれば、1手指すごとに費やした時間の合計が、20分を超えてしまうと負けとなってしまいます。
ルールとしては非常にシンプルで対局時間が長引いてしまうこともないため、アマチュアの大会や、スマホアプリでの対局でよく使われるルールです。ただし、どんなに将棋の局面が優勢でも時間が切れると負けになってしまうため、注意が必要です。
秒読み、プロの棋戦ではこちらが主流
プロの将棋で一般的なルールが、「秒読み」です。これは、指し切りルールと同様に対局者には持ち時間がありますが、持ち時間を使い切っても即負けにはならないのが最大の特徴です。持ち時間を使い切った後では、1手につき決められた時間以内(多くの場合は1分)に指す必要があります。持ち時間を使い切った状態を、「1分将棋」と呼びます(もしくは「30秒将棋」など)。
例えば、持ち時間が1時間あり使い切ったら1手1分というルールの場合、「持ち時間1時間秒読み1分」といった呼び方をします。
持ち時間を使い切り、さらに1手あたりの時間以内にも手を指すことができなかった場合の扱いについても、いくつかルールがあります。時間切れで即負けになる場合が基本ですが、ルールによっては「考慮時間」というものが設定されています。既定の回数だけは時間切れが認められ、時間が切れた場合は考慮時間として、1手あたりの時間がさらに1分間延長されます。なお、1手の間に複数回の考慮時間を使うことも可能です。
対局者の持時間が切れた時点より、記録係が秒読みを行う。
1.1分将棋の場合は「30秒・40秒・50秒・1・2・3・4・5・6・7・8・9・10」と、秒を読む。
最後の「10」を読まれた対局者は時間切れで負けとなる。
2.30秒将棋の場合は「10秒・20秒・1・2・3・4・5・6・7・8・9・10」と、秒を読む。
最後の「10」を読まれた対局者は時間切れで負けとなる。
3.対局者は残り10分になったら、1分将棋になる前から、同様の秒読みを記録係に要求することができる。
4.対局者が秒読みの最中に駒を手から落とした場合には、指で盤面部分を押さえ、どう指すかを言えば着手の代用と認める。
例えば、名人戦では持ち時間9時間、秒読み1分、考慮時間なしのため、対局者は1手指すごとに費やした時間が9時間を超えたところで、1分将棋となります。
またHNK杯では、持ち時間10分、秒読み30秒、考慮時間10回のため、対局者は1手指すごとに費やした時間が10分を超えたところで、30秒将棋となります。また30秒将棋になっても10回までは時間オーバーが認められ、時間をオーバーすると1分の時間が加算されます。
秒読みの将棋は、指し切り将棋のように局面で優勢にもかかわらず時間のせいで負けてしまうという状況になりにくいというメリットがある一方で、専用の対局時計や記録係が必要となるため、アマチュアの大会などではあまり使われません。
なお、秒読みが30秒の未満のルールで指す将棋のことを、総称して早指しと呼びます。
フィッシャールール(フィッシャーモード)、チェスでよく使われる方式
フィッシャールールは、指し切りルールと同様に、持ち時間を使い切った時点で負けとなってしまうルールです。ただし、1手指すごとに持ち時間が加算されていくという特徴があります。
例えば、AbemaTVトーナメントでは、持ち時間5分、1手あたり5秒加算のフィッシャールールが採用されています。このルールでは、1手あたり5秒以内に指し続ければ持ち時間は無くならないという計算になります。
フィッシャールールは、チェスの対局でよく使わているルールで、将棋の対局ではあまり一般的ではありません。また専用の対局時計も必要となります。
主な棋戦や、将棋アプリでのルールは?
プロ棋戦、公式戦、タイトル戦での持ち時間は?
プロの公式戦では、基本的には秒読みのルールが適用されます。以下の表に、代表的な棋戦の持ち時間を示しています。
棋戦 | 持ち時間 | 秒読み | 考慮時間 |
---|---|---|---|
竜王戦 | 8時間 | 1分 | - |
名人戦 | 9時間 | 1分 | - |
叡王戦 | 1, 3, 5, 6時間から選択 | 1分 | - |
王位戦 | 8時間 | 1分 | - |
王座戦 | 5時間 | 1分 | - |
棋王戦 | 4時間 | 1分 | - |
王将戦 | 5時間 | 1分 | - |
棋聖戦 | 4時間 | 1分 | - |
順位戦 | 6時間 | 1分 | - |
朝日杯オープン戦 | 40分 | 1分 | - |
銀河線 | 15分 | 30秒 | 10回 |
HNK杯 | 10分 | 30秒 | 10回 |
オンライン対局での持ち時間は?
将棋ウォーズなど、オンライン対局アプリでの持ち時間を以下の表に示します。ネット対局のアプリやサイトでは、いくつかの持ち時間を選択できる形式が一般的ですが、どれもプロの棋戦と比べると時間が短く設定されています。
アプリ、サイト名 | 持ち時間 | 秒読み | 考慮時間 |
---|---|---|---|
将棋ウォーズ | 10分 | - | - |
3分 | - | - | |
0分 | 10秒 | - | |
将棋クエスト | 10分 | - | - |
5分 | - | - | |
2分 | - | - | |
81道場 | 15分 | 1分 | - |
10分 | 30秒 | - | |
5分 | 30秒 | - | |
0分 | 30秒 | - | |
将棋倶楽部24 | 30分 | 1分 | - |
15分 | 1分 | - | |
1分 | 30秒 | - | |
0分 | 30秒 | 回数無制限、累計1分まで |
持ち時間の計測方法、タイマー?チェスクロック?
プロの棋戦では、持ち時間の計測は記録係と呼ばれる人がストップウォッチかチェスクロックを用いて計るのが一般的で、棋戦によってどのように時間計測するか決められています。
第4条 持時間
対局者の持時間は、各棋戦によって異なり、記録係がストップウォッチあるいはチェスクロックで計る。
A.ストップウォッチ使用の場合
1.1分未満は切り捨て、消費時間には加えない。
2.持時間を使い切る1分前より秒読みとなり、使い切った場合は負けとなる。B.チェスクロック使用の場合持時間を使い切ってから秒読みとなる。
プロ棋戦の多くは、ストップウォッチで計測!1分未満は切り捨て
プロ棋戦の多くでは、ストップウォッチを用いて持ち時間の計測をしています。ストップウォッチはもともとボードゲームの時間計測に使用されるものではないため、正確に持ち時間を記録するのは困難です。そのため1分未満の時間は切り捨てて計測します。このルールでは、1手あたり1分未満で指せば持ち時間は一切消費しないこととなり、持ち時間が1分を切ったところで秒読みの将棋になります。
例えば、名人戦は持ち時間9時間の秒読み1分ですが、実際には8時間59分を消費したところで1分将棋になります。
持ち時間の短い将棋では、対局時計(チェスクロック)を使う
HNK杯など、持ち時間の短い棋戦では、正確に時間を計るために対局時計(チェスクロック)を使用するのが一般的です。対局時計では、1秒単位に持ち時間が計測され、持ち時間を使い切ったところから秒読みになります。
プロの棋戦には、記録係と呼ばれる人が立ち会い、持ち時間の計測や棋譜の記録などを行います。この記録係は、奨励会員が行うのが一般的です。
持ち時間ルールの特殊な例、遅刻は?トイレは?
持ち時間がなくなったら?考慮時間って?
上記でも解説したように、持ち時間を使い切った場合は、指し切りなら即負け、秒読みなら1手1分以内の1分将棋(もしくは30秒将棋)になります。1分将棋の時間も使い切ってしまった場合は、基本的には負けとなってしまいますが、棋戦によっては考慮時間が設定されていて、決められた回数以内なら時間切れをしても1分追加されるルールになっています。
例えば、HNK杯では持ち時間10分で、持ち時間を使い切ると1手30秒、1手の30秒を超えてしまっても、10回までは1分間の考慮時間が追加されるというルールです。1手あたり複数回の考慮時間を使うことも認められていますが、10回の考慮時間も使い切ってさらに時間オーバーしてしまうと負けになってしまいます。
プロが対局に遅刻してしまったら?
プロ棋士が対局に遅刻してしまった場合、遅刻した時間×3の時間を持ち時間から差し引くルールとなっています。例えば15分遅刻してしまった場合は、15分×3=45分の時間が持ち時間から引かれた状態で対局が始まります。
ただし、遅刻時間が1時間を超えるか、持ち時間を差し引いた結果持ち時間が0分以下になってしまった場合は不戦敗の扱いとなります。
1時間遅刻で不戦敗に
対局に遅刻した場合は、1時間で「負け」になってしまいます。
1時間以内でも、遅刻した時間の3倍差し引き
1時間以内に到着した場合も遅刻した時間の3倍を持ち時間から差し引きます。40分の遅刻の場合、40x3=120分が持ち時間から差し引かれての対局となります。出典:『日本将棋連盟』https://www.shogi.or.jp/column/2017/01/post_68.html
トイレや、食事中の扱いは?
トイレの時間も、持ち時間は減っていきます。プロの棋戦で持ち時間が短くなってからトイレに行くと、勝敗に直結してしまうこともあるため、プロ棋士は持ち時間がたっぷりあるうちにトイレを済ませておくことが多いです。
また、食事に関しては、持ち時間の長い棋戦では40分の食事休憩が設定されていて、その間は持ち時間が消費されません。
二日制の棋戦で、日をまたぐときは?封じ手って?
タイトル戦など、持ち時間の長い対局では2日制の将棋になることもあります。2日制の将棋では、1日目の最後の指し手が相手にわからないように、指し手を記入した紙を封筒に入れて記録係に渡します。
千日手で指し直すときの持ち時間は?
将棋のルールでは、千日手が発生した場合は先手と後手を入れ替えて指し直すことになっています。このときは、指し直す前の持ち時間を次の対局に引き継ぐルールとなっています。
ただし、持ち時間が1時間未満となっている場合は、少ない方の時間が1時間になるように、双方に同じ時間を加算するルールになっています。例えば、指し直す前の持ち時間が、それぞれ1時間30分と45分にだった場合、15分ずつ加算して1時間45分と1時間の持ち時間にして指し直しを行います。時間を加算する場合も、最初の持ち時間を越えた時間にすることはありません。
千日手や持将棋が成立した場合は、30分の休憩後、即日、先後を入れかえて指し直す。
1.指し直し局の持時間は両対局者の各残り時間とする。
片方または両方の対局者の持時間が、1時間に満たない場合には、少ない方の対局者の持時間が1時間になるように、両対局者に同じ持時間を加える。
ただし、初めの持時間を越えて加算することはない。
まとめ
- 指し切り:持ち時間を使い切ると負け。アマチュア将棋で一般的なルール
- 秒読み :持ち時間を使い切ると1手1分(or 30秒等)以内に。プロ棋戦で一般的なルール
- フィッシャールール:1手指すごとに持ち時間が増えていく。ほとんど使われていないルール